「英語ができる人と自分を比べない」、「比べるなら昨日の自分」という考え方をわかっている方は多いでしょう。でも、もっと根源的な比較対象があったことに気づいたお話をします。
憧れの人と自分の英語と比べてはいけない
英語ができる人と自分を比べないことが大事、とよく聞きます。
わかっちゃいるけど、比べてしまうのは人の常。どうしようもありません。
私の人生は映画と英語でできている、といっても過言ではありません。字幕翻訳家になったのも、大好きな映画と英語を使える仕事がしたかったから。
そして、その夢を体現していたのが戸田奈津子さんでした。たくさんの映画の字幕翻訳をてがけているだけでなく、ハリウッドスターの来日時に流暢な通訳をこなす姿に、強く心を惹かれました。

また、大学時代から毎朝聴いていたJ-Waveの番組「Tokyo Today」のDJ、ジョン・カビラさんにもシビれていました。日本語も英語も自在に操る彼の声に魅了され、「ああ、こんな風になれたら…」と思ったものです。
目標となる憧れの存在は大切です。でも、その憧れと自分を比べてばかりいると、自分を追い詰めることになりかねません。
私が50を過ぎて気づいたこと
他人と比べない。比べるなら昨日の自分だ、と言い聞かせて、少しずつ気持ちがラクになってきた私。
でも、50を過ぎて、ある発見がありました。
自分が「英語と日本語と比べている」ことに気づいたのです。
英語の速読講座がきっかけだった

私が「英語を日本語とくらべている」と気づいたのは、英語の速読講座を受けたときでした。2024年6月、世界的に有名な脳トレコーチ、ジム・クイックのSuper Readingを受講したのです。
日本語なら新幹線並みのスピードで読めるのに英語では読むのが遅い!と感じて、もどかしさを感じていたのです。
レッスンを続けるうちに、しんどくなってきました。早く読もうとすると、内容が頭にはいってこない。
楽しくない。つらい。
このとき、ハタと気づきました。

わたし、英語を日本語と比べている!
英語で読むのが遅い!の前に、「日本語に比べると」が隠れていることを自覚していなかったのです。
この気づきは、まるで憑きものが落ちたかように私の気持ちをラクにしてくれました。
講座は参考程度にとどめておくことにしました。そもそも、この講座は英語が母国語の人向けなので無理があったのです。
今は、自分のペースで洋書を読んでいます。登場人物の気持ちに共感したり、ハラハラしたり、泣いたり笑ったりしながら、ムリせず英語を味わっています。
あのとき日本語とくらべていることに気づかなかったら、今も英語を読むスピードが遅いことを気にしていたかもしれません。
あなたはどうでしょう?「日本語と英語を比べている」自分がいませんか?
なぜ日本語と比べてしまうのか?
なぜ無意識に日本語とくらべてしまうのでしょうか?
それは自由自在に操れる言葉が、日本語だけだからです。
日本で生まれて日本の学校教育を受けた人は、第2外国語といえば英語。他の言語を知らないまま英語を学ぶと、英語のシンプルさ・合理性に気づきません。
オランダ語にくらべたら英語はカンタン
しながふみ著「大奥」という漫画をご存知でしょうか?


外国語といえばオランダ語だった江戸時代。ペリーの黒船がやってきて以降、どんどん英語が入ってきます。
オランダ語を必死で学んできた人がこう言います。
この英語という言語の明快さはなんなんだ!
オランダ語にくらべたら、英語は明快・カンタン・合理的。
定冠詞も「the」の1つだけ。名詞に女性男性の区別もありません。
でもオランダ語を学んでいたからこそ気づく視点ですよね。
気づかないのは当たり前
現代の日本では、何はともあれ「英語」です。
無意識レベルで使える言葉が日本語だけだとしたら、英語も日本語のレベルにならないと「できた」と感じられない。そりゃそうですよね。他にくらべる言語がないのだから。
でも、もし中学で英語を習い始めるときに、先生がひとこと:
日本語みたいに英語が話せなくていいんだよ。
と言ってくれていたなら、ずいぶん気持ちがラクになっただろうなと思います。
当たり前すぎて気づかないこと
エリン・メイヤー著「異文化理解力 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養」という本に、こんな例え話が出てきます。


二匹の若い金魚が、向こうから泳いできた年寄りの金魚とすれ違う。
年寄りの金魚は彼らに挨拶して言う。
「おはよう坊やたち!水の調子はどうだ?」
すると若い金魚の片方がもう片方に聞く。
「おい水って何だ?」
「異文化理解力」より
この若い金魚たちにとっての「水」が、日本人にとっての「日本語」です。
日本語はむずかしい。ひらがな・カタカナ・漢字の3種類あるし、漢字には音読み訓読みもある。でも日本にいたころは、そんなの当たり前だったからむずかしいなんて思いもしませんでした。
サンディエゴにある大学UCSDで日本語のTeaching Assistantをやったときのこと。「ふ」というひらがなを書くのが外国人にとっては非常にむずかしいことを知りました。それまでは、まったく気づかない視点でしたよ。
私の娘たちは英語が母国語で、日本語を第2言語として学びました。日本語補習校に毎週土曜日に通い、大変苦労した過程を私は側で見ています。
まとめ
あなたは、母国語である日本語と英語をくらべている、と感じましたか?
日本語と同じレベルに英語ができなくても、それは仕方ないんだ!と前向きに開き直ると、とても気持ちがラクになります。これは「英語ペラペラ幻想」にも通じる考え方。
少しずつ英語の語彙をふやす。自分にとって役にたつフレーズを覚える。
そういう地道な積み重ねこそが、あなたの英語力を育ててくれます。

