「飼い慣らせないもの」と生きていく。Netflixドラマ『Untamed』と、あの日の雪

映画『Apex』でエリック・バナの渋さにやられ、そのままNetflixで見つけたのが『Untamed』でした。舞台はヨセミテ国立公園。観ながら気づいたのは、このドラマにはuntamed——「誰にも飼い慣らせないもの」があちこちに満ちているということ。大自然、癒えない悲しみ、人間の裏の顔。そしてその言葉は、10年前に私がヨセミテで経験した、あの雪の日を思い出させました。
『Untamed』を観ることになったきっかけ
数日前に観たシャーリーズ・セロン主演の映画『Apex』で、エリック・バナの渋さにやられました。シャーリーズ・セロンの恋人役なのですが、出ている時間も台詞も少ないのに画面に存在感が満ちている。そういう俳優です。
「この人が主演のドラマがあるなら、観るしかない」と思ってNetflixで見つけたのが、『Untamed』でした。舞台はヨセミテ国立公園。エリック・バナが演じる孤独な捜査官が、深い森の中で事件を追います。
映像も演技も、期待通りでした。そして観ながら、じわじわと気づいたことがあります。このドラマには、「誰にもコントロールできないもの」=「Untamed」があちこちに満ちている、と。
舞台は世界遺産、雄大なヨセミテ国立公園。国立公園局のベテラン特別捜査官カイル・ターナーは、名所エル・キャピタンから転落した若い女性の不審死の捜査に乗り出す。カイルは、過去に息子を亡くした深い悲しみとトラウマを抱え、寡黙に生きる男だった。彼は意欲あふれる新人レンジャーのナヤ・バスケスとタッグを組み、一見すると不慮の事故に見える事件の真相を追い始める。
しかし、捜査が進むにつれて、ヨセミテの息をのむほど美しい大自然の裏に隠された、人間のドス黒い陰謀と組織的な闇が次々と明らかになっていく。事件の核心に迫るにつれ、カイルは自身の過去の傷とも向き合うことを余儀なくされていくのだった。配信直後からその重厚なストーリー展開が大きな話題を呼び、即座にシーズン2の制作が決定した本格大自然クライム・スリラー。
製作年:2025年
配信:Netflix
脚本:マーク・L・スミス、エル・スミス
出演:エリック・バナ、サム・ニール、ローズマリー・デウィット、リリー・サンティアゴ、ラウル・マックス・トルヒージョ
Untamed とシェイクスピア
人間は昔から、思い通りにならないものを「飼い慣らそう」としてきました。
シェイクスピアの喜劇『じゃじゃ馬ならし』の原題は”The Taming of the Shrew” ——「気性の荒い女を手なずける」という物語です。”tame”という動詞には、野生のものを制御下に置く、という意味があります。
そこに接頭辞un-をつけると、untamed——「誰にも飼い慣らせないもの」になります。

自然。感情。人間がどれだけ抵抗しても、コントロールできないものは確かに存在します。そのことを、私は10年前に体験しました。
ヨセミテで恐怖に固まった体験

実は私にとって、ヨセミテは恐怖で固まった場所です。
2015年4月、春休みに家族と訪れた2日目の昼のこと。ガソリンが減ってきたので山裾のスタンドへ向かい、給油を終えてホテルへ戻ろうとしたとき、雪が降ってきました。
あっという間に路面が白く変わっていきました。雪道の準備など何もしていない大型VANで、山の曲がりくねった道を走っていた私たちはスリップし、そのまま道の真ん中で立ち往生。夫に「降りて押してくれ」と言われて外に出たものの、足元はUGGブーツで雪の上では全く踏ん張れません。娘たちもまだ11歳と7歳。結局、車に戻ってAAAに電話しました。
私たちの車をよけようとした対向車がぶつかり合い、岩肌に追突する車も出ました。それをただ車の中から見ているしかなかった。私たちが原因でした(幸いケガ人は出ていません)。
ぶつかった車の運転手たちが私たちに「どこから来たんだ?」と聞き、私と夫が「サンディエゴから」と答えました。彼らは肩をすくめ、天を仰ぎながら「これだからサンディエガン(サンディエゴの住民)は雪道を走っちゃだめなんだよ。」
その通りでした。何も言い返せませんでした。申し訳なくて、怖くて、AAAを待つ間ずっと縮こまっていました。
It was completely out of our hands.
私たちには何もできることがなかった
人間にはどうしようもないことがある——ヨセミテの自然は、私たち家族の都合など最初から知りませんでした。まさに"untamed"な経験でした。
ドラマが描く「飼い慣らせないもの」
『Untamed』の主人公カイルも、飼い慣らせないものを抱えて生きています。息子を亡くした悲しみ。理性でいくら整理しようとしても、感情は言うことを聞きません。
画面に映る大自然は息をのむほど美しい。でもその美しさは、人間に対して完全に無関心です。広い野原で野宿しながら、裏では麻薬や銃で金を稼ぐ人々も出てきます。表の顔と、飼い慣らせない本性。
大自然も、感情も、人間の裏の顔も——タイトルのUntamedという一語が、それらすべてを静かに指し示しているのです。

トリビア
この作品は、映画『レヴェナント: 蘇えりし者』(レオナルド・ディカプリオが初めてアカデミー主演男優賞を獲得した作品)の脚本家マーク・L・スミスらが手掛けました。当初はリミテッド・シリーズとして企画されていましたが、配信直後からその重厚なストーリー展開が大きな話題を呼び、即座にシーズン2の制作が決定したそうです!
カイルの別れた妻を演じるのはローズマリー・デウィット。彼女は名脇役女優で、主演こそ多くないものの、本当にいろんな作品(「ラ・ラ・ランド」「マッドメン」「United States of Tara」など)に出ています。私が観る作品によく出ている、と言うべきかもしれませんが。
もう一度、あの場所へ
あの日から10年以上経ちますが、ヨセミテには戻っていません。でもこのドラマを観ていたら、緑が深い夏のヨセミテにもう一度行ってみたいと思いました。作品が、記憶を少し上書きしてくれたようです。
おまけ
『Untamed』の第1話、息をのむような美しい映像の中、事件はある場所で起きます。それがヨセミテの象徴であり、世界中のクライマーの聖地、巨大な一枚岩「エル・キャピタン」です。
この岩壁を見て、あの傑作ドキュメンタリー映画『Free Solo(フリーソロ)』を思い出す方も多いのではないでしょうか。命綱なし、素手だけであの絶壁を登りきる、人間の限界を超えた挑戦。
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞している作品です。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!
Thank you for reading!
